- AIモデル共有最大手CivitAIが「Two Front Doors」を発表——SFWコンテンツはcivitai.com、NSFWはcivitai.redに分離し、約2026年4月16日に実装予定。
- 起点は2025年5月23日の決済プロセッサーによるサービス停止。Visa・MastercardがAI生成成人向けコンテンツを「高リスク」とみなし、CivitAIはクレジットカード決済を全面停止した。
- 2ドメイン分離はコンテンツの削除ではなく構造的な分断——SFWにクレジットカードを取り戻し、NSFWは暗号資産のみで存続させることで、1,000万ユーザーの双方のコミュニティを守る設計。
参照元
出典: Two Front Doors: Civitai.com, Civitai.red, and What's Next(CivitAI公式)
CivitAIとは何か——AI画像生成の事実上のインフラ
CivitAIは2022年にJustin MaierとMaxfield Hulkerが設立したAIモデル共有プラットフォームだ。Stable Diffusion・Fluxなどのオープンウェイトモデルのチェックポイント、LoRA、埋め込みベクトルを誰でも公開・ダウンロード・利用できる仕組みを提供し、現在は最大級のAI生成コンテンツコミュニティへと成長した。
規模感(2024年中盤時点):
- 登録ユーザー1,000万人超(2024年だけで320万人増)
- 公開モデル20万件超、LoRA 44万6,000件以上
- 月間訪問2,600万件、AI系サイト全体でトップ10圏内
- 累計AI生成画像5億9,900万枚
CivitAIのモデルライブラリなしには、多くのAI画像生成ワークフローが成立しないほど業界インフラに近い存在だ。
「Two Front Doors」——何がどう変わるか
2026年4月9〜10日に公開されたアナウンスメント「Two Front Doors: Civitai.com, Civitai.red, and What's Next」で、CivitAIは以下の構造を発表した。
| ドメイン | コンテンツ | 決済 | 対象 |
|---|---|---|---|
| civitai.com | SFWのみ(PG〜PG-13) | クレジットカード、メンバーシップ | 主流ユーザー |
| civitai.red | NSFW + 選択でSFW | 暗号資産のみ | アダルトコンテンツコミュニティ |
重要なのは「削除や再スタートではない」という点だ。
- アカウントは統合——フォロー、アップロード実績、統計は両ドメインで共有
- コンテンツは保持——既存のアップロードはすべて維持される
- SFW画像は両ドメインに表示、NSFW画像はcivitai.redのみ
- Buzzクレジットも維持(後述)
出典: Two Front Doors(CivitAI公式)
決済の3階層——「Buzz」通貨システムの設計
CivitAIの内部通貨「Buzz」は分割に合わせて3種に整理された。
- Green Buzz:クレジットカードで購入、civitai.com(SFW)専用
- Yellow Buzz:暗号資産で購入、civitai.red(NSFW)専用
- Blue Buzz:リアクション・アップロード・広告表示で無償取得、両ドメインで利用可能
この設計は規制当局・決済会社に対して「SFW事業のキャッシュフローにNSFWの成人コンテンツが一切混在しない」ことを証明するための財務的分断でもある。
なぜクレジットカード会社が決定権を持つのか
2025年5月23日の衝撃
2025年5月23日、CivitAIは突然のクレジットカード決済停止を公表した。決済プロセッサーが「AI生成の成人向けコンテンツを取り扱うサービスへの提供を終了する」と通告したためだ。
出典: Credit Card Payments Pausing(CivitAI)
これは突発的な出来事ではなく、業界全体で繰り返されてきた構造的な問題だ。
業界の先例——OnlyFansとPornhubの教訓
- 2020年12月:New York Timesの調査報道を受け、MastercardとVisaがPornhubへの決済提供を停止。Pornhubは1,000万件以上の動画を削除。
- 2021年4月:Mastercardが成人向けコンテンツサイトへの新規要件を発表。被写体全員の年齢・同意確認、公開前のコンテンツ審査、苦情対応プロセスの義務化。
- 2021年8月:OnlyFansが露骨なコンテンツの禁止を一時発表(数日後に撤回)。銀行と決済ネットワークからの圧力を直接の理由として挙げた。
Stripe、PayPal、Squareなど主流プロセッサーはそもそも成人コンテンツを禁止している。VisaとMastercardは加盟銀行が「高リスク」ビジネスへの対応を拒否することを認めており、これにより事実上の規制権力を持つ。
出典: CivitAI Tightens Deepfake Rules Under Pressure from Mastercard and Visa(Unite.AI)
AI生成コンテンツが「新たな戦線」になった理由
従来の成人向けプラットフォームへの規制圧力は実在人物の保護(CSAM・非合意ポルノ)が起点だった。AI生成コンテンツはその境界を曖昧にした。本物の人間が映っていなくても、実在人物のデジタル生成物(ディープフェイク)は被害を引き起こし得る。これが決済会社をAI画像生成プラットフォームへと矛先を向けさせた直接的な理由だ。
規制環境の変化——Take It Down ActとEU AI Act
米国: Take It Down Act(2026年5月19日施行)
初の連邦レベルの法律として、非合意AI生成親密画像(NCII: Non-Consensual Intimate Imagery)の作成・配布に対して最長3年の刑事罰を設ける。2026年1月時点で、米国47州がすでにディープフェイクに関する州法を制定している。
EU: AI Act
実在の特定個人を性的に描写するAI画像を生成する「ヌーダファイアー(nudifier)システム」の禁止を盛り込んでいる。施行タイムラインはEU加盟国の実施規定が整い次第確定。
CivitAIが2025年以降に実在人物の肖像コンテンツ禁止や全NSFWアップロードへのメタデータ(年齢・同意確認)添付を義務化した背景には、こうした立法の流れへの先手対応がある。
コミュニティへの影響
2025年5月のコンテンツ規制変更では950件超の否定的なリアクションがプラットフォーム内で記録された。Trustpilotの78%が1つ星という評価は、既存の不満を示している。
「Two Front Doors」の発表はこうした緊張を緩和する設計になっている——NSFWコミュニティを「削除」するのではなく「civitai.red」という専用の家を与え、「何も削除しない、リセットしない、巻き戻さない」というメッセージを明示している。
出典: CivitAI Users Angry Over Ban on Kinky Content AI Art(Decrypt)
他プラットフォームへの示唆——「2ドメインモデル」の汎用性
CivitAIの手法は新しいパターンを示した。コンテンツ削除でも完全禁止でもなく、「ドメイン分離 + 決済分離」によって規制のコンプライアンス要件を満たしつつコミュニティを保存する設計だ。
同プラットフォームのアーキテクチャ(両ドメインが同一データベースのフィルタービュー)がこれを可能にした。モノリシックなプラットフォーム設計ではこのアプローチは難しい。
リスクとして残るのは、暗号資産決済プロセッサーへの同様の規制圧力だ。NowPaymentsが現在CivitAI.redの決済基盤だが、暗号資産プロセッサーにも類似の選別が起きた前例はある。また、取引履歴がオンチェーンに残る暗号資産は、規制当局が追跡しやすい面もある。
まとめ
CivitAIの「Two Front Doors」は、AI画像生成の最大コミュニティが決済インフラの規制圧力に対してとった、現時点で最も精巧な構造的回答だ。
- 本質はコンテンツではなく決済の問題:Visa・MastercardというB2Bの意思決定が、数百万ユーザーのコンテンツアクセスに直結している
- 2ドメイン設計は複製可能なモデル:成人コンテンツを含む他のAIプラットフォームが同様の圧力に直面したとき、参照される先例となる
- 規制の流れは一方向:Take It Down Act・EU AI Actなど立法が整うほど、決済会社側の審査は厳格化する方向に向かう
引用元・参考リンク
CivitAI公式: Two Front Doors: Civitai.com, Civitai.red, and What's Next
CivitAI公式の2ドメイン移行アナウンスメント
CivitAI: Credit Card Payments Pausing (May 23, 2025)
2025年5月の決済停止アナウンス
Decrypt: CivitAI Pivots to Crypto After Credit Card Processor Bans AI Explicit Content
決済プロセッサー停止と暗号資産移行の経緯
Unite.AI: CivitAI Tightens Deepfake Rules Under Pressure from Mastercard and Visa
MastercardとVisaの圧力によるコンテンツルール強化
Decrypt: CivitAI Users Angry Over Ban on Kinky Content AI Art
コンテンツ規制に対するユーザーの反応
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