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2026 年 3 月、ambrは、自社が開発するSteam 版『gogh』の販売本数が30 万本を突破したと発表した。
日本発でありながら、海外ユーザー比率が 70% と高く、世界中のユーザーにプレイされている。
代表の西村氏が、Steam マーケティングの基本方針、4 つの重要タイミングでの具体的施策、ウィッシュリスト獲得の戦略を公開した。
本稿はこの Steam マーケティングの極意を解説する。
gogh とは
goghは、自分でカスタマイズしたアバターとルームで一緒に作業に集中できるプロダクトだ。
- カスタマイズ - アバターとルームを自由にカスタマイズ
- 集中支援 - ポモドーロタイマーや ToDo リスト
- Lofi BGM - チルな Lofi 作業用 BGM、環境音 ASMR
- 育成要素 - 謎の生命体の育成
元々はスマホ向けに開発したが、「PC でも使いたい」という声を多くいただき PC 版の開発を決定した。
グローバルで広げていくことを目指して、Steamというプラットフォームを選んだ。
Steam マーケティングの基本方針
Steam 版 gogh のマーケティングを考えるにあたって、最初に強く意識していたのは、Steam というプラットフォームの特性だ。
Steam のアルゴリズム
Steam はアルゴリズムが非常に強力で、各ユーザーに対しておすすめのゲームを自動的に露出してくれる。
そのため、Steam のアルゴリズムに乗ることができれば、多くの Steam ユーザーに見つけてもらえる。
一方で、そのアルゴリズムに乗れなければ、なかなか露出されず、売上が伸びにくいという厳しさもある。
売れているゲームがさらに売れ、逆にほとんど売れないゲームもあるのは、この構造が大きい。
ウィッシュリストの重要性
だからこそ、Steam では発売前にどれだけ準備できるかが非常に大切だ。
その中でも重要な指標になるのがウィッシュリスト数だ。
発売前にどれだけユーザーのウィッシュリスト登録を積み上げられるかが、その後の初動に大きく影響する。
gogh でも、発売前のウィッシュリスト数を明確な目標として置き、いくつかのタイミングと施策に集中して取り組んだ。
4 つの重要タイミングでの具体的施策
Steam 版 gogh で特に重視して取り組んだのは、4 つのタイミングでの施策だ。
1. アナウンス
まずは「Steam で gogh というものが出る」ことを認知してもらう必要がある。
このため、最初にアナウンストレーラーを用意した。また、同時にウィッシュリストを蓄積するためにSteam ページも用意した。
アナウンストレーラーがどれだけ再生・拡散されるか、その結果としてウィッシュリストを獲得できるかは非常に重要だ。
ここでトレーラーが再生されないのであれば、もしかしたらゲームコンセプトにニーズがないか、トレーラーがそれを伝えられていないかのどちらかだ。
トレーラーに問題がある場合は、トレーラーを作り直すのが良い。
しかし、残念ながらゲームコンセプトを見直す必要もあるかもしれない。
ゲームコンセプトが受け入れられないのであれば、その後頑張って開発を続けても、ヒットさせることはかなり難しくなる。
そこを見定める観点でも、アナウンストレーラーは非常に重要だ。
gogh の場合: アナウンストレーラー公開から2 週間でウィッシュリスト 10,000 件を突破することができた。
また、ありがたいことに、このタイミングから国内の複数の大手ゲームメディアにも取り上げて頂くことができた。
日本では、ゲームメディアの発信力が強く、特に X における拡散力が高いため、初期の国内での認知・ウィッシュリスト獲得にとって非常に大きな存在だ。
2. Steam Next Fest & デモ版
Steam Next Festは、とても重要なイベントだ。
Steam の中で、リリース前のタイトルとデモ版が大きく注目されるタイミングだ。
イベント中に Steam 内のランキングに入れれば、一気にウィッシュリストを増やせる可能性がある。
ただし、そのためにはSteam Next Fest の前までに、ある程度のウィッシュリストが積み上がっている必要がある。
そうでないとデモ版を公開しても、体験してくれる人数はあまり見込めない。
(よっぽどデモ版がおもしろくて話題になれば別だが。)
だからこそ、まずは上のアナウンストレーラーでしっかりウィッシュリストを獲得していることが重要になる。
また、Steam Next Fest は一タイトルにつき一回しか出られない。
十分なウィッシュリストと、面白さを理解してもらえるレベルのデモ版が準備できた後に参加するのが良い。
gogh の場合: ウィッシュリスト2 万件のタイミングで Steam Next Fest 直前を迎えた。
また、Steam Next Fest の3 日前にデモ版を公開し、不具合などを確認した上で Steam Next Fest に臨めるようにした。
結果として、デモも多くの人にプレイ頂き、Steam Next Fest 終了時点ではウィッシュリスト 4 万件を突破することができた。
また、Steam Next Fest 終了後すぐに、ユーザーの声を踏まえた今後の開発計画を策定して公開した。
例えば、もっと広いルームが作りたいという声を受けて、Large ルームの制作を決定した。
3. リリース直前期
リリースの一ヶ月前に、リリース日をアナウンスした。
新規にトレーラーつくりました。プレスリリースも配信し、デモ版と製品版の比較表もつくり、新たにアップデートされる点を強調してお知らせした。
リリース5 日前からはソーシャルメディアでのカウントダウン投稿を行った。
リリース日に上位を獲得することが、初動期間の売上に影響すると考えた。
また、リリース2 日前からは、日毎のウィッシュリスト獲得数も急増した。
Steam 上の「近日登場」に掲載されたからだと思う。
4. リリース
最後がリリースだ。
もちろんトレーラーを準備し公開した。
リリース前日時点のウィッシュリストは 8.5 万で、元々目標としていた7 万本を超えることができた。
その結果、リリース時には Steam 内の「注目&おすすめ」のトップや、「話題の新作」にも掲載されることができた。
一方で、リリース時点の製品版としては不具合や操作性など未熟な部分も多かった反省がある。
その結果、リリース初期は望んでいたほどは販売数が伸びなかったのが事実だ。
しかし、その後の継続的な改善と、約半年後のマルチプレイ機能による大規模アップデートによって、一気に販売が加速していく。
他の施策と反省
ウィッシュリストの海外比率
ウィッシュリスト数の中で、海外比率も重要な指標として見ていた。
Steam 利用者全体の中で、日本人ユーザーの比率は2-3% と非常に小さい。
国内だけだと販売本数に限界がある。
そのため、ウィッシュリストも日本国内だけで積み上げるのではなく、海外からどれだけ獲得できるかが大事だと考えていた。
具体的には、全体のウィッシュリスト目標数に対して、地域ごとの目標数を設定してトラッキングしていた。
展示会
展示会にも出展した。
発売前にはTokyo Indie Games Summit、リリース後にはBitSummitに出展した。
正直、出展によってウィッシュリストが大きく増えたことはなかった。
ただ、実際にユーザーや楽しみにしてくれている人たちと話せたのはとても嬉しいのと同時に学びにもなった。
また、いくつかとても貴重な繋がりも生まれた。
展示会は、Steam 上の数字を直接伸ばす場というより、ユーザー理解を深めたり、将来につながる接点を作ったりする場として、参加して良かったと思う。
ゲームメディア
国内のゲームメディアにも取り上げて頂いた。
トレーラーやプレスリリースを公開するときに、主要ゲームメディアの問い合わせフォームやメールにご連絡させて頂いた。
日本のゲームメディアは、X での発信力・拡散力が強いことが特徴だ。
伝わる紹介文とトレーラーのカットで、何度も X での拡散を生み出して頂いた。
日本のゲーム開発者にとって、非常にありがたい存在だと心から思う。
一方で、海外のゲームメディアにはほとんど取り上げてもらえなかった。
いくつか連絡もしてみたのだが、うまくいかなかった。
ソーシャルメディア
ソーシャルメディアとしては、X・Discord・YouTube・Bilibili・Rednoteを中心に運用した。
これらはフォロワー数も蓄積していくことができた。
中国語圏のプラットフォームの運用は、中国出身の大学生のアルバイトに担当してもらっていた。
一方で、TikTok や Redditは全然活用できなかった。
どちらもゲームマーケティングにも効果的だと聞くこともあるので、もっとうまくトライできると良かったかもしれない。
多言語のプロモーション動画
また、上で紹介したもの以外にもいくつかプロモーション用の動画を公開した。
例えば、ゲームプレイ動画は、日本語、英語、中国語、韓国語の 4 ヶ国語のナレーション付きで制作した。
声優さんを起用するのではなく、チームのメンバーにそれぞれナレーションを担当してもらった。
また、クロダ 42 というペット紹介動画については、リードエンジニアが良い声だったので日本語ナレーションを担当してもらった。
このように、なんでもできるだけ自分たちでやってみよう、という形でトライしていった。
Steam ゲーム分析サイトの活用
Steam ゲーム分析サイトもよく活用した。
気になるゲームがあったときには、Steam ゲーム分析サイトで過去のウィッシュリストや販売本数の推移予測を調べながら分析していた。
自分は当時はVideo Game Insightsを活用していたのだが、買収されてプラン内容に変更があったので、今だとGamalyticなどだろうか。
結論:小さなチームでも Steam マーケティングは可能
こう長々と書くと、Steam ゲームマーケティングは大変に思えるかもしれない。
しかし、gogh チームでは実は、マーケティング専任の社員はいない。
開発ディレクターの番匠が全体を主導し、トレーラーの企画や X の投稿、Steam ページの整備を全て行った。
また、海外マーケティングについても、中国のソーシャルメディアは大学生インターン、韓国・英語のソーシャルメディアは副業のメンバーが運用した。
上記のような自分たちがやってきたような、トレーラーとソーシャルメディアを中心としたマーケティングであれば、小さな開発チームでも、予算が小さくてもチャレンジできるのではないだろうか。
また、それでも十分に Steam のバッターボックスに立てる。
一方で、Steam ではマーケティングだけで勝つことは難しい。
面白いゲームがあってこそのマーケティングだ。
面白くないゲームであれば、そもそもトレーラーが注目を集めることも難しい。
また、仮に事前にウィッシュリストを集めることができたとしても、発売後の評判や Steam での低評価レビューによって売れ行きは伸び悩むだろう。
第一優先は間違いなく面白いゲームをつくることであり、その上でマーケティングに取り組む順番が良い。
ただし、実はマーケティングのプロセスは面白いゲームを作り上げていくためにも重要だ。
アナウンストレーラーは、初期のゲームコンセプトの検証になる。
デモ版の配布は、多くのユーザーフィードバックを集める非常に良い機会になる。
マーケティングに取り組むことは、面白いゲームを作り上げられる可能性を上げることにもなる。
開発とマーケティングを分離したものではなく、開発プロセスの一環として、マーケティングも設計するのが良いのではないだろうか。
参考:
引用元・参考リンク
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