中国経済という機械は今、エンジンを換装しながら走っている。
旧エンジンは不動産だった。建設・販売・金融が一体となった巨大なループが20年間、GDPを押し上げた。2022年のピーク比でこのループは30%収縮し、恒大・碧桂園という巨大企業が倒れた。住宅価格は70大都市平均で前年比マイナス8%(2025年末)。
新エンジンはEV・半導体・グリーンエネルギーだ。だが機械全体の出力を維持できるかを問うと、答えは「確率35%」になる。
新エンジンのスペックは優秀だ。
| セクター | 世界シェア(2025年) | 2026年成長率(予) |
|---|---|---|
| EV(電気自動車) | 70% | +28% |
| 太陽光パネル | 82% | +18% |
| リチウムイオン電池 | 76% | +22% |
| 半導体(成熟ノード) | 25% | +35% |
BYDは2025年にトヨタの世界販売台数を超えた。CATLのバッテリーはEVの世界シェアの40%を動かしている。この競争力は本物だ。
しかし問題は出力ではなく、旧エンジンが担っていた「雇用創出」と「地方財政」という副産物だ。不動産セクターは直接・間接合わせてGDPの25%を占め、地方政府歳入の40%を土地売却収入が支えていた。EVと太陽光がこれを代替するには、雇用の密度が違いすぎる。
機械を減速させる3つの摩擦力を順番に見る。
摩擦1:内需不振とデフレ圧力
不動産資産の目減りが家計の消費意欲を抑えている。中国の消費者物価指数(CPI)は2024年後半からほぼゼロ近傍で推移し、日本が経験した「失われた10年」のデフレとの類似が指摘され始めた。政府の景気刺激策(利下げ・公共投資)は打たれているが、バランスシート不況の論理に従えば、負債削減優先の民間行動を政府支出で相殺するには財政規模が足りない。
摩擦2:地政学的摩擦と関税の壁
欧州連合は2024年にBYD等の中国製EVに最大35%の追加関税を発動。米国の関税率は100%を超える。中国EVの主戦場はASEAN・中東・南米に移っているが、GDPへの寄与という意味では欧米市場での閉め出しが効いている。半導体については、先端ノードへのアクセスがTSMCとの取引制限で封じられており、成熟ノードの成長にも天井がある。
摩擦3:習近平政権の政策不確実性
政府主導の産業政策は集中投資を可能にするが、突然の規制(教育テック、ゲーム、プラットフォーム)が民間投資意欲を冷やすリスクを恒常的に持つ。外資の直接投資は2023年以降急減しており、これは長期的な技術移転や市場アクセスの機会を失うことを意味する。
シナリオと確率。
- 転換成功・5%成長維持(確率35%):内需刺激が機能し、EV・電池の輸出が欧米以外市場で補完。デフレが止まり賃金が上昇するサイクルへ。
- 部分的転換・4〜4.5%成長(確率45%):新3本柱が貢献するが内需回復は遅く、成長率は「合格ライン」をやや下回り続ける。
- 日本型長期停滞(確率20%):バランスシート不況が長引き、デフレが定着。政策の余地が縮小する。
日本の投資家にとっての実務的な含意は1点だ。中国の新3本柱(EV・電池・パネル)に部材・装置・素材を供給する日本の中堅製造業は、このシナリオのどれが実現しても一定の恩恵を受ける。中国向け消費財・不動産関連より、製造工程の上流に位置する企業に優位がある。
引用元・参考リンク
免責事項 — 当記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。