目次
2026 年 3 月、個人投資家のこぺる氏(@coperu100)が X で**「なぜ東京のマンション価格は上がり続けるのか」**を分析した。
世帯数の増加、古い住宅の増加、そして毎年失われる住宅から考える
これは前編の続きで、今回は住宅ストックの**「減る側」**に焦点を当てている。
本稿はこの分析の概要、統計データ、そして東京の住宅市場が抱える構造的課題を解説する。
前編の振り返り
前編では、東京 23 区では世帯数の増加に対して、新築の供給はそれほど強くないという点を見た。
- 世帯数は増加し続けている
- 新築供給は限定的
- 住宅需給は見た目ほど緩くない
今回は、その需給を考えるうえで、新しく建つ住宅だけを見ても実態はつかみにくいという点を分析する。
1. 住宅は、毎年かなりの量が失われている
東京 23 区では、毎年かなりの建物が消えていっている(除却・滅失)。
滅失建築物の統計
東京都の統計に基づき、東京 23 区における 2015 年から 2022 年までの滅失建築物をまとめる。
| 年 | 棟数 | 床面積 | 参考住戸数 | 評価額 |
|---|---|---|---|---|
| 2020 年 | 4,182 棟 | 約 161 万㎡ | 約 2.3 万戸分 | - |
| 2021 年 | 5,397 棟 | 約 226 万㎡ | 約 3.2 万戸分 | - |
| 2022 年 | 4,270 棟 | 約 226 万㎡ | 約 3.2 万戸分 | - |
| 累計(2015-2022) | - | 1,579 万㎡ | 約 22 万戸 | 5,500 億円相当 |
ここには住宅以外の建物も含まれるため、そのまま住宅戸数と一致するわけではない。
しかし、少なくとも東京 23 区では、住宅ストックが毎年ただ積み上がっているわけではないということは見えてくる。
床面積を、仮に 1 戸あたり 70㎡で機械的に割ると:
- 2020 年は約2.3 万戸分
- 2021 年と 2022 年は約3.2 万戸分
- 累計では、約22 万戸が失われている計算
あくまで目安ではあるが、減っていく側の規模感としては、かなり大きいと言ってよさそうだ。
(2025 年の東京 23 区の新築分譲の供給数は約8,500 戸だった。)
2. しかも、これから先は減りやすい住宅がさらに増えていく
ここでさらに重要なのが、今残っている住宅ストックそのものが、高経年化していくことだ。
築古マンションの増加
築 40 年以上の分譲マンションは:
| 年 | 戸数 |
|---|---|
| 2018 年 | 24.6 万戸 |
| 2023 年 | 42.8 万戸 |
| 2038 年(見通し) | 86.9 万戸 |
建替えが大きく進まなければ、2038 年には86.9 万戸まで増える見通しだ。
これだけの住宅が今後、修繕、建替え、除却といった更新の局面に入っていく。
市場で選ばれる住宅が細っていく
ここで、少し自分ごととして考えてみると分かりやすいかもしれない。
SUUMO などで家を探すとき、築年数は何年までで絞るだろうか。10 年か。20 年か。あるいは、旧耐震の住宅に、積極的に住みたいと思うだろうか。
もちろん、築古でも管理の良い住宅はある。
ただ、一般論としては、築年数が古い住宅ほど選ばれにくくなるのは自然だ。
そう考えると、住宅ストックの高経年化は、単に数字の問題ではなく、「市場で実際に選ばれる住宅」が細っていく話でもある。
新規着工数の減少傾向
新規着工数と累積着工数を見ると、2020 年にかけて新規着工数は減少傾向にある。
2025 年時点では、この減少傾向はその後も大きく反転していない。
つまり、今見えている滅失だけでなく、これから先の減少圧力そのものが強まっていくと考えたほうが自然だ。
東京の住宅市場は、足元の供給だけでなく、将来のストック減少まで同時に抱えているように見える。
3. 一方で、世帯数は増え続けている
前回見た通り、需要側では世帯数の増加が続いている。
東京都の世帯数・人口
東京都の 2025 年 1 月 1 日時点の 23 区:
- 人口: 973.1 万人(22.8% 増加)
- 世帯数: 552.7 万世帯(45.5% 増加)
人口の増加以上に世帯数が積み上がっている以上、必要な住戸数は今もじわじわと増えている。
需給の構造
住宅が毎年失われ、しかも今後は古い住宅の増加で減少圧力が強まりやすく、その間も世帯数は増え続けている。
この時点で、住宅需給は自然には緩みにくいように見える。
4. 供給はあるが、高値で、ゆっくり出てくる
では、新しい供給がこの圧力を十分に埋めているのだろうか。
分譲マンション市場を見ると、そうとも言い切れない。
新築分譲マンションの供給
不動産経済研究所によると、2025 年の東京 23 区の新築分譲マンション発売戸数は8,064 戸だった。
さらに、供給の「出し方」にも変化が見られる。
1 回当たり供給戸数の減少
第一期発売開始物件の 1 回当たり供給戸数の平均値は、2025 年には35.6 戸まで低下している。
- 2010 年代前半:50 戸前後
- 近年:40 戸台が中心
- 2025 年:35.6 戸
1 回に売り出される戸数はかなり絞られてきている。
完成在庫の増加
首都圏の分譲中戸数:
| 年 | 分譲中戸数 | 完成在庫 |
|---|---|---|
| 2024 年末 | 6,814 戸 | 3,204 戸 |
| 2025 年末 | 6,976 戸 | 3,678 戸 |
完成した住戸を抱えながらも、一度に大きく売り切るのではなく、時間をかけて販売している姿が見えてくる。
供給の慎重さ
整理すると、今の分譲マンション市場では:
- 供給そのものが細い
- 供給の出し方もかなり慎重
デベロッパー各社は、一度に売り出す戸数を絞りながら、高い価格帯を維持したまま、ゆっくり販売しているように見える。
その結果、需要が消えているわけではないのに、市場に出てくる住戸数は限られ、需給は緩みにくいままになっている。
5. 結論:だから、需給は緩みにくい
前回の記事では、東京 23 区では世帯数が増え続ける一方で、新築の供給はそれほど強くなく、住宅需給は見た目ほど緩くない、という点を見た。
今回あらためて見たのは、その需給を考えるうえで、新しく建つ住宅だけを見ても、実態はつかみにくいのではないか、ということだ。
3 つの構造的要因
- 住宅は毎年少しずつ失われている
- 今ある住宅ストックそのものも高経年化が進んでおり、今後さらに更新の局面に入る住宅が増える
- 需要側では世帯数の増加が続いている
つまり東京の住宅市場では、住宅が増える側だけでなく、減っていく側もあわせて見ないと、需給の実態は見えにくい。
その一方で、需要側では世帯数の増加が続いている。分譲マンション市場では、高値を維持しながら、戸数を絞って、時間をかけて販売する傾向も見られる。
そう考えると、東京 23 区の住宅需給が自然に大きく緩むとは、やや考えにくいように見える。
重要な視点
こうした重なりを見ていくと、東京 23 区の住宅価格や賃料が下がりにくいことにも、やはり構造的な背景があるように思える。
東京の住宅市場を見るうえでは:
「なぜ高いのか」ではなく、「なぜ高くなりやすい構造なのか」
という視点で見ることが重要なのだろう。
参考文献
この記事で使用された統計数据来源:
- 東京 23 区の世帯数・人口 - 住民基本台帳による東京都の世帯と人口 令和 7 年 1 月
- 東京 23 区の滅失建築物 - 東京都統計年鑑 令和 4 年 3-13 地域別滅失建築物
- 東京 23 区の総住宅数・空き家 - 住宅・土地統計調査 2023 年 1-1-1 居住世帯の有無別住宅数
- 築 40 年以上の分譲マンションの見通し - 東京都の住宅事情 令和 3 年 9 月
- 首都圏・東京 23 区の新築分譲マンション供給 - 不動産経済研究所 2025 年首都圏マンション市場動向
- デベロッパーの販売姿勢・完成在庫 - 長谷工総合研究所 2025 年首都圏分譲マンション市場の総括と展望
- 市況補足 - 東京カンテイ 2025 年第 4 四半期 首都圏新築マンション市場動向
参考:
引用元・参考リンク
免責事項 — 当記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。