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「関税は交渉のカードだ」という楽観論がある。間違いではないが、重要な視点が抜けている。機械はすでに動いており、カードを引っ込めてもサプライチェーンは元に戻らない。
機械の構造を読む
第2次トランプ政権が発動した追加関税の規模は、第1次政権を大幅に上回る。対中国の平均関税率は60%超、対EUは25%、戦略物資(自動車・半導体・医薬品)には品目別で100%超が適用される事例もある。
この数字が意味するのは、コスト計算の書き換えだ。製造業の調達担当者は「中国から買い続ける」という選択肢をコスト試算から事実上消した。いくら外交交渉が進もうと、一度動いた設備投資とサプライヤー契約は数年単位で固定される。
チャートが示す通り、中国の対米輸出は2022年比で36%減少する見込みの一方、ベトナムは同期間に76%増加している。この逆相関は偶然ではなく、機械の歯車そのものだ。
現在地と3つのシナリオ
機械の動きは3つの流れに分類できる。フレンドショアリング(同盟国への移転)、ニアショアリング(地理的近隣への移転)、リショアリング(米国本土回帰)だ。2026年現在の主流はフレンドショアリングとニアショアリングの併走で、リショアリングは製造コストが高すぎて進捗が遅い。
シナリオ分岐は関税の継続期間による。
シナリオA(関税が2028年まで続く): サプライチェーン再編が固定化し、ASEAN・インドへの直接投資が一段と加速する。日本の製造業にとっては現地調達体制の早期確立が急務になる。
シナリオB(2027年に部分的緩和): 対EU関税が先に下がり、対中は高止まりする。欧州向け輸出に依存する日本企業にはリリーフだが、中国デリスキングの方向性は変わらない。
シナリオC(全面的エスカレーション): 中国が報復関税を強化し、半導体素材・レアアース輸出規制が再発動される。日本の電機・化学メーカーへの打撃が最大化するシナリオで、確率は低いが無視できない。
帰結:受益者はすでに決まっている
どのシナリオでも、大きな方向性は変わらない。脱中国依存・同盟国優遇という機械のベクトルだ。
受益を享受しやすい立場にいるのは、インド・ベトナム・メキシコへの製造拠点を持つか今から確保できる企業、そして物流・港湾・半導体製造装置のように「移転コスト」に乗れるセクターだ。対中依存度が高いまま動けていない素材・化学メーカーは、機械の歯が噛み合うほど不利になる。
関税が「交渉カード」である面は確かにある。しかし機械が動き始めてから手を打つのでは、機会コストが積み上がる。
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