Lab Research 1998年の亡霊:円キャリーの構造は今も変わっていない
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1998年9月、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が破綻寸前に陥ったとき、世界の金融機関はようやく気づいた——自分たちが同じ取引の反対側に立っていたことに。26年後の2026年、同じことが繰り返されようとしている。舞台だけが変わった。今回の主役は円キャリートレードだ。

2026年の円キャリートレードは1998年LTCM危機と同じ構造を持つ。過度なレバレッジ、縮小しつつある金利差、そして誰も予期しないトリガー——巻き戻しは時間の問題だ。


1998年、何が起きたか

LTCMの戦略は単純だった。低金利の通貨(当時はスイスフランや円)を借りて、高利回りの資産(ロシア国債、米国スワップスプレッドなど)に投資する。いわば巨大な円キャリーファンドだ。

問題は規模とレバレッジにあった。自己資本45億ドルに対し、総資産は1250億ドル。レバレッジ比率は約28倍。さらにデリバティブのエクスポージャーは1兆ドルを超えていた。

1998年8月、ロシアがルーブルを切り下げ、国債のデフォルトを宣言した。これが引き金を引いた。リスクオフが急加速し、日本円は一夜にして12円上昇した(1ドル=135円→123円)。LTCMのポジションは逆回転を始め、わずか5週間で46億ドルの損失を計上。FRBが緊急召集した金融機関の救済団がなければ、グローバルな連鎖破綻が起きていたとされる。


構造比較:1998年と2026年

歴史は繰り返さないが、韻を踏む——マーク・トウェインが言ったとされるこの言葉は、金融市場において驚くほど正確だ。

3つの構造的共通点が浮かび上がる。

第一:金利差の縮小局面での蓄積。1998年当時、日米金利差は5.5%から縮小トレンドにあった。2026年現在、日銀の利上げとFRBの利下げにより、金利差は3.75%まで縮んでいる。ポジションが最も危険になるのは、金利差が縮小し始めてもキャリー取引が惰性で続いているときだ。

第二:レバレッジの不透明な蓄積。LTCMの場合、各取引相手が全体像を把握していなかった。2026年も同様だ。BIS推計によれば、円建てのクロスボーダーポジションはデリバティブを含めると4兆ドルを超える。だが、実際のレバレッジの全容を把握できている規制当局は存在しない。

第三:低ボラティリティが生んだ慢心。1998年夏、VIXは16前後と落ち着いていた。2026年2月現在、VIXは13台で推移している。市場が静かなほど、参加者はレバレッジを積み上げる。そして嵐は、誰も予期しないときに来る。


今回の「ロシア国債」は何か

1998年の引き金はロシアのデフォルトだった。では2026年の引き金は何か。

候補は複数ある。日銀が2026年前半に0.5%の追加利上げを決定するシナリオ。米国の景気後退が予想より早く訪れ、FRBが緊急利下げに踏み切るシナリオ。あるいは地政学的な突発事態によるリスクオフ——いずれも単独では「想定内」として市場に消化されるかもしれない。

問題は、これらが複合的に発生したときだ。LTCMも「ロシアのデフォルト単体」で破綻したわけではない。ロシア危機が引き起こしたリスクオフが、すべての相関資産を同時に動かしたことが致命傷だった。

2024年8月の円急騰(1ドル=158円→142円、わずか3週間)は予行演習に過ぎない。あのとき日銀が動いたのはわずか0.25%だった。次に金利差が急縮小するとき、残存ポジションは2024年夏より遥かに大きい。


ならばどうなるか

歴史の類推から導かれる結論は、心地よくはない。

1998年のLTCM危機は、FRBの調整と主要金融機関による36億ドルの資本注入で封じ込められた。しかし今回のポジション規模は1998年の3倍以上だ。封じ込めに必要な「消火剤」の量は桁が違う。

円キャリーの巻き戻しは段階的には起きない。LTCMのときと同様、全員が同じ出口に殺到する。流動性が蒸発したとき、ドル円は1日で10円動くことになる。それが日本株、新興国通貨、クレジット市場に連鎖していくプロセスは、1998年の秋が教科書を書いた。

「今回は違う」と言いたい理由は常に存在する。だが構造が同じなら、結果も同じになる確率は高い。歴史の韻を聞き取れるかどうか——それだけの話だ。

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引用元・参考リンク

免責事項 — 当記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。